『ファイナルファンタジーVII リメイク』が解き明かす、現代社会の「光と影」：環境、格差、そして抗う意志
虚構のミッドガルが映し出す現実：『ファイナルファンタジーVII リメイク』の多層的なメッセージ
人気ファンタジー作品は、単なる娯楽としてだけではなく、時に現代社会が抱える本質的な問いを私たちに突きつけます。スクウェア・エニックスが手掛ける『ファイナルファンタジーVII リメイク』（以下、『FFVII リメイク』）もまた、その一つです。オリジナル版の壮大な物語を現代の技術と解釈で再構築した本作は、多くのプレイヤーを魅了しながらも、その深層には現代社会が直面する具体的な課題、すなわち環境問題、格差社会、そして個人のアイデンティティの探求と抗う意志といった普遍的なテーマが色濃く反映されています。
本稿では、『FFVII リメイク』の虚構の世界、特に巨大都市ミッドガルの描写とそこに生きる人々のドラマを通して、現実社会のどのような「光と影」が映し出されているのかを深く掘り下げて分析いたします。
環境問題とエネルギー倫理：魔晄炉の光と影
『FFVII リメイク』の物語の核にあるのは、生命のエネルギーである「魔晄」を吸い上げて電力とする「魔晄炉」の存在です。この魔晄を独占的に管理・供給する神羅カンパニーは、その技術によって世界に繁栄をもたらす一方で、星の生命力を蝕んでいるという深刻な問題を抱えています。主人公クラウドたちが所属する反神羅組織「アバランチ」は、この星の生命（ライフストリーム）を守るために魔晄炉の破壊を目指します。
これは、現代社会が直面するエネルギー問題と環境破壊のメタファーとして、非常に示唆に富んでいます。現実世界における化石燃料への依存、原子力発電の安全性と倫理、そして再生可能エネルギーへの移行といった議論は、まさに『FFVII リメイク』の描く「魔晄文明」と「星の命」の対立と重なる部分が多く存在します。
作中でアバランチのメンバー、ウェッジが「神羅がこの星の命を吸い上げているんだろ？」と問いかけるように、経済的発展と引き換えに環境が破壊されるという構図は、現代社会においても頻繁に見られます。企業活動が環境に与える影響、持続可能な開発目標（SDGs）への取り組み、グリーンウォッシング（見せかけだけの環境配慮）の問題など、魔晄炉の存在は多角的な議論のきっかけとなるでしょう。私たちは星の恩恵を享受しながらも、その代償として何を犠牲にしているのか、この作品は静かに問いかけています。
格差社会と企業支配：ミッドガルの構造が語る不平等
ミッドガルは、巨大な円盤状のプレートの上に富裕層や権力者たちが住み、その下に貧困にあえぐスラムの人々が暮らすという、極端な階層社会を象徴する都市です。神羅カンパニーは、プレート上層の居住区を管理し、電力や情報を完全に掌握することで、スラムの人々を支配下に置いています。スラムの住人は上層の光景を拝むことすらできず、神羅の都合の良い情報操作によって、アバランチのような抵抗勢力は「テロリスト」とレッテルを貼られてしまいます。
このミッドガルの構造は、現代社会における経済格差、情報格差、そして一部の大企業による社会インフラの支配と酷似しています。特定の企業がインフラや情報を独占することで、社会全体に大きな影響力を行使し、富の偏在を生み出す現象は、現実世界でも見受けられます。
スラム出身のジェシーが、家族の医療費のために危険な仕事に手を出さざるを得ない状況は、貧困が個人の選択肢を奪い、格差が固定化される現実を突きつけます。また、プレートを支える柱が象徴するように、上層の繁栄は下層の犠牲の上に成り立っているという構造は、現代社会における労働環境やサプライチェーンにおける不平等を考察する上で重要な視点を提供します。ミッドガルは、見えない壁によって分断され、情報が操作される現代社会の「影」を鮮やかに描き出していると言えるでしょう。
アイデンティティの探求と抗う意志：運命に立ち向かう者たち
『FFVII リメイク』の物語は、単なる環境保護や社会変革のテーマに留まりません。主人公クラウド・ストライフの「偽りの記憶」という設定は、自己認識やアイデンティティの不確かさを描いています。彼は自身の過去や能力について明確な記憶を持たないまま、ティファやエアリス、そしてアバランチの仲間たちとの出会いを通して、少しずつ真の自己を見つめ直していきます。
これは、情報過多な現代社会において、SNSなどの情報に影響されやすい自己像や、他者の期待に応えようとする中で揺らぐアイデンティティの探求と重ねて考えることができます。私たちは何者であり、どのように生きるべきかという普遍的な問いは、クラウドの個人的な葛藤の中に深く込められています。
また、物語終盤で登場する「運命の番人」との戦いは、プレイヤーの記憶に残る「オリジナル版の物語」という運命、あるいは既定路線そのものへの挑戦と解釈できます。キャラクターたちが自身の意志で未来を切り開こうとする姿勢は、システムや構造によって個人の自由が制限されがちな現代社会において、私たちに「抗う意志」の重要性を訴えかけているのではないでしょうか。集団的行動における個人の役割、そして困難な状況下での倫理的な選択など、彼らの選択は私たち自身の行動原理を問い直すきっかけを与えてくれます。
結論：虚構の物語から現実の未来へ
『ファイナルファンタジーVII リメイク』は、単なる懐古的なリメイク作品ではありません。それは、私たちが生きる現代社会が直面しているエネルギー問題、深刻化する格差、情報操作、そして個人が自己を見つめ直し、困難な状況に抗う意志といった本質的なテーマを、壮大なファンタジーのフィルターを通して鮮やかに描き出しています。
魔晄炉の光と影、ミッドガルの階層構造、そして運命に抗うキャラクターたちの姿は、虚構の物語でありながら、現実世界の「光」（持続可能な未来への希望、連帯の力）と「影」（環境破壊、不平等、無力感）を浮き彫りにします。
この作品は、私たちに「星のために、そして未来のために、今何ができるのか」という問いを投げかけています。物語の登場人物たちが困難な現実に立ち向かったように、私たちもまた、この虚構の物語から得られる示唆を自身の見識として深め、現実世界での行動へと繋げていくことができるのではないでしょうか。